東京高等裁判所 昭和58年(ネ)1083号 判決
ところで、株式会社の代表取締役は、新たに債務を負担すべき契約を締結するに際しては、右債務を期限に弁済できる見込があるかどうかを子細に検討し、その見込が極めて少ない場合にはそのような契約を締結しないようにする注意義務があるのに、被控訴人新間は右義務を怠り、大新建設の資金繰りの一切を担当していた取締役坂井四郎が急死した昭和五四年五月一八日の時点において、大新建設の資金繰りのめどが立たない状況に陥り、新たに債務を負担しても期限にその弁済ができなくなることが予見できたにもかかわらず、たとえ期限に約定の弁済ができなくても、債権者より手形の書替を受けるなどして支払の猶予を得、事業を継続することができ、手形の不渡、倒産という事態を避けうるものと軽率に考え、控訴人との間で本件下請契約を締結したほか、他の多くの下請業者と下請契約を締結し、控訴人は、右契約に従い工事を完了し大新建設に引渡ししたが、一部下請業者において手形の書替に応ぜず、大新建設振出の約束手形が不渡となり、同社が倒産したため、八二四万八〇〇〇円の請負代金相当の損害を被ったのであるから、被控訴人新間は、大新建設の代表取締役としてその職務を行うにつき重大な過失があったものというべく、商法二六六条の三第一項により、控訴人の被った右損害を賠償する責任がある。
しかしながら、被控訴人大久保は全くの名目上の取締役として、同作中は主として技術指導及び工事受注関係を担当する取締役として、いずれも被控訴人新間から資金繰りについての相談を受けることなく、また、取締役会も開催されず決算報告書も紛飾されていたことから、大新建設の経営の実態を知らず、かつ、取締役就任の経緯ないし就任後の職務の内容からして、被控訴人作中も同大久保と大新建設の資金繰りないし経営につき口出しできる立場になく、また、仮に被控訴人作中及び同大久保が同新間に対し意見を述べたとしても同新間がそれに従って控訴人その他の下請業者との間の下請契約の締結を中止したとは到底考えられないから、被控訴人作中及び同大久保には大新建設の取締役として悪意又は重大な過失があったとはいえず、また、被控訴人作中及び同大久保が本件請負契約の締結を阻止する行動に出なかったことと控訴人の前記損害の発生との間には相当因果関係が存しないものというべきである。
(川添 新海 石井)